大学の授業-固定化の弊害と改善の可能性

大学の専門科目には競合が無い,つまり学生に他の授業を選ぶ選択権が無い.また,受講生からのフィードバックの機会も無い.そのため,教官の授業改善のインセンティブを作り出す要因が見当たらない.

例えば,板書という「非効率」な形式について言及してみる.板書の利点の一つは,受講者が自ら手を動かすことで知識の定着率が上がることだ.しかし,私は専門科目の授業の目的は,知識量をふやすことよりも,概念を理解し,それが使えるようになることが目的だと考えているので,板書よりも演習型やスライドを用いた効率的な情報伝達のほうが望ましいと感じる.しかし,このような意見を教官にフィードバックする機会がないために授業内容と形式は,毎年同じ内容になりがちだ.

それでは,そもそも共感は研究の時間を削ってまで授業は改善すべきなのだろうか.それを考えるために,授業の時間的ROI (Return on Investment)について考えてみる.文部科学省は1単位を15時間の講義と30時間の予習復習によって取得されるものだと定義している.1週間に1コマ1.5時間の授業について,教官の立場からのROIを検討してみる.

1コマに注目すると,教官のInvestmentは講義1.5時間+準備・事後処理の時間である.これは実質の労働時間を週45時間とすると,3%+αに当たる.しかし,準備不足からその効果が薄くなる場合が多い.

情報の取引に要する時間だけに着目してみる.教官が1.5時間だけ準備に時間をかけたとして講義中に伝達できる内容が10%向上したとすると,学生一人当たり1.5時間×10%=0.15時間だけ伝達時間を短縮できたといってもよい.例えば,学生が100人受講していたとすると,15時間分の時間が余剰として生み出される.ROIはOutput (学生の余剰時間) / Input (教官の準備時間) = 1000%である.

もちろん,教官と学生の労働時間当たりに生み出す価値を等価という前提は正しくないが,時間的ROIの視点からも,教授が授業改善に時間をかけることには意味がありそうだ.