Robert Axelrod, Michael D. Cohen (寺野隆雄 訳) [2003] 複雑系組織論 Harnessing Complexity

【概要】
複雑系研究の第一人者,ロバート・アクセルロッドが2003年現在の複雑系研究の取り組みと・成果・今後の課題を整理した本である.進化生物学,コンピュータ科学,社会デザインの分野への応用例を豊富に説明している.

【引用】
p.200 フレームワーク
・戦略:その時々の状況に応じて何をすべきかを示す条件に応じた行動パターン
・人工物:明確な位置を持つ物的資源.エージェントの行為に反応する
・エージェント:人工物や他のエージェントと相互作用する特性(特に位置),戦略,能力のあつまり
・個体群:エージェントの集まり.状況によっては戦略の集まり
・システム:エージェント(および人工物)の個体群を少なくとも一つ以上含むより大きなあつまり
・型:何らかの特性を持つ,個体群内のすべてのエージェント(または戦略)
・多様性:個体群内またはシステム内での型の多様さ
・相互作用パターン:システム内での型間の接触において繰り返される規則性
・物理空間:物理的な空間と時間におけるエージェントや人工物の位置
・概念空間:「近くの」エージェントが相互作用しやすくなるように配置された複数のカテゴリーの中での「位置」
・淘汰:さまざまな型のエージェントや戦略を増減させるプロセス
・成功基準:エージェントまたは設計者が信頼度の付与に使用する「得点」のことで,比較的成功している(または成功していない)戦略やエージェントを淘汰するときの基準に用いる

p.202 フレームワークを用いる上での課題
・そのシステムでの戦略,エージェント,人工物はなにか.エージェントが行動するうえで,信念,経験則,ルーティン,規範となるものは何か.エージェントはどんなツールや資源を使用できるか
・エージェントの個体群は何か.誰が誰の戦略を複製できるのか
・エージェントはその分類する方法について,特別な目印を持っているか
・適切な分類方法は
・複製と再結合のプロセスは,型の多様性にどのように影響を与えるか
・多様性の維持や破壊にはどのような介入が効果的か.現行のプロセスで生じるエラーの可能性,結果生じる多様性の価値
・システム内の多様性と均一性.知識探査と文脈の維持のトレードオフ
・時間の経過による変化と,成功基準との関係


p.38 適応の速さと多様性の維持はトレードオフ

p.51 エージェントの型
1.型はエージェントの特徴によって定義される
2.個体群内には,エージェントによって認識されない多様性もたくさんある
3.型が違うからといって,エージェントの行為が異なるとは限らない
4.型の多くは内生的である.個体群内のエージェントは,型を検知し,その条件に応じて行動する.(システムが適応的であれば型の定義でさえも変化する)
5.外政的な型もある.つまり,複雑適応系を外側から分析する人にとって型が定義されることがある

p.55 外部ネットワーク性とは
ある商品の購買者が増えれば増えるほど,個々の購買者に恩恵がもたらされること

p.92 外的な活性化プロセスと内的な活性化プロセスの違いは大きい

p.98 組織という概念空間
概念空間に必要なのは位置とみなすことのできる複数のカテゴリーがあることと,個体群内のエージェントが異なるカテゴリーのメンバーになれること.エージェントの相互作用のしやすさを位置であらわす.

p.108 ネットワークチャネルの半透過性

p.136 時間尺度の分離原則
システムの上層は長期的なプロセスに,下層は短期的なプロセスに関係している場合が多い.(Simon, 1981)
長期的な行動は,短期的に行動するレベルを統制するレベルに割り当てられ,この方法で組織化されたシステムには競争優位がある.(Simon, 1986)

p.142 障害解消のジレンマ
自己組織的臨界状態では,問題が雪崩的に発生する.防止には長期的な介入が必須で,事象同士の関係性を下げるモジュール化アプローチも有効.

p.160 成功基準はシステム内で決まる
エージェント自身によって,修正されたり適用されたりする.成功基準にも多様性があるが,度が過ぎると,一貫性の無さや摩擦を弱める原因になる.

p.171 淘汰圧
戦略やエージェントを淘汰する圧力が高い状態では,多様性が失われる.

p.180 信頼度の付与
・適切な選択に対して明確な報酬が与えられるかどうか
・観察や実践を繰り返し行えるかどうか
・選択の検討にかかるコストが低く,頻繁に選択を行えるかどうか
・選択の結果に対して優れたフィードバックがあるかどうか
・環境が不変で,推論が有効であり続けるかどうか
・文脈が明確で,効果的に分析できるかどうか

p.184 信頼度付与の誤り
・責任は全体,だが一部に信頼度を付与してしまう
・責任は別の要因,だが,特定の要因に信頼度を付与してしまう
・条件を誤解していた.だが,成功したときに戦略の信頼度を付与してしまう

p.198 淘汰の5要素
・成功基準
・エージェントや戦略の淘汰
・信頼度の付与
・新しいエージェントや戦略の生成メカニズム
・目に見える形でのリーダーシップの発揮

【Journal】
A journal of complexity issues in organizations and management

複雑系組織論
ロバート・アクセルロッド, マイケル・D・コーエン, 高木 晴夫, 寺野 隆雄 / ダイヤモンド社 ( 2003-06-06 ) /アマゾンおすすめ度