佐々木正人(編)[2007] 包まれるヒト

ヒトとは,環境に包まれている.特に,「光学的情報による身体と環境のカップリング」というコラムが興味深い.オプティカル・プッシュという現象を取り上げているのだが,これは力が働いていない状況でも,近く情報の変化からあたかも力が働いているかのように人間がふるまうというものだ.例として,低空飛行をする航空機が,海上から地上へと移動した場合,外部からの気流などの影響がないにもかかわらず,高度を上げてしまうという現象がある.これは,地表という視覚的に構造豊かな地形パターンを新たに認知することで生じるという.
実際に力がないにもかかわらず,認知によって力が生じたかのようにふるまう.これは人間の組織においても同じことではないだろうか.


[引用]
p.8生態心理学者のギブソンサーフェスが隣り合う部分をエッジ(縁)と呼んだ
人は肌理(きめ)に包囲されている

p. 71人間を含む動物は,光学的流動に代表されるような(運動を特定する)「情報」によって自らの「力」を制御し,移動する
力によってではなく,環境から視覚的に知覚するものによって制御されている.

p. 96複合された水準で,行動資源を取り込み構造として地図化する

p.187言葉というものには二つの矛盾した概念を一瞬にして並立させてしまう力があるということを,内実の意味はわからないまま学習してきているからにすぎない.

p. 189 私たちは,腑間によって与えられる見取り図だとか組織図だとかによって何事かを理解したつもりになるがいったい何を理解しているといえるのか.そこで本当に起こっていることを見ないで済ましているのではないか.

p. 195言葉というのは,集合Aと集合Bの重なり合うところで機能するようにできている

p. 198 ほとんどすべての場合,人間は言葉の助けを借りずに見ることも聞くこともできない.