グレゴリー・クラーク(Gregory Clark)著,久保恵美子 訳 [2009] 10万年の世界経済史(上)(下)

ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』では、各大陸の進化の違いは、偶然の地理的要因によるとした。本書では、そこで取り扱われなかった経済的活力の違いに焦点を当てている。

上巻では、産業革命によってマルサスの罠(食糧生産は等差数列的に増加するが、人口は等比数列的に増加するため、将来必ず破たんする)が解消されるまでを取り扱っている。

マルサス的経済が成り立つ状況では、出生率、死亡率、及び一人当たりの所得は均衡を保っている。例えば、一人当たりの所得が伸び、死亡率が下がると、一人当たりの所得を押し下げ、結果として、死亡率が上がってしまう。その均衡状態を変化させるのは、技術革新である。しかし、産業革命以前の社会でも、技術革新はゆっくりとした速度ながら進行していた。その技術進歩率がある水準に達することはなかった。

下巻では、なぜ産業革命が18世紀のイングランドで発生したか、という謎に対するヒントを提供している。

著者はその理由として、「英国での生産性上昇率が高まったこと」及び「1750年~1870年にかけて英国の人口が生産性とは関係なく急増したこと」を挙げている。これらは独立に生じた。つまり、いずれかの部門で生産性の大幅な向上が始まる前に、人口の増加は始まっていた。

主張の根拠として、著者は多くの事実(数値)を元に議論を進めているが、因果関係の論拠がどうしても不十分に思える。それが経済学の限界なのか、自分の知識不足によるものなのかはわからないが。

「歴史は繰り返される」という言葉に表象されるように、歴史を突き動かす誘因はおそらく単純なものだろう。しかし、それを統一的に説明するためには、経済学と他の学問のさらなる融合が必要だろう。

参考:『1枚の図でわかる世界経済史』池田信夫Blog