理想的な機械設計プロセスとは

語句の説明

要求仕様とは,受注元からの要望のことで,具体的設計値に落とし込まれていない場合が多いため,設計前に,要求仕様を設計値に落とし込むことが必要になる.
設計仕様とは,要求仕様や制約条件,及びコンセプト(作り手の要望)から派生する仕様のことである.

ワークとは,機械の動作対象となる対象物のこと.例えば,エアコンにとってのワークは,ファンではなく,空気と部屋であり,エンジンにとって,ワークはピストンではなくガスである.冷蔵庫の場合,コンプレッサではなく,ビールとキャベツがワークとなる.

タイミングチャートとは,機械の動作を2次元グラフにプロットしたもの.通常はx軸に時間,y軸に物理量(位置,速度,加速度)がプロットされる

部品樹形図とは,設計機能をブロック別に整理し,上位の階層から順にツリー形式で整理したもの.例えば,人力飛行機の場合,第一階層には,翼,駆動系,操作部,フレーム,の4階層が存在し,翼の下の第二階層には,主翼,補助翼(左),補助翼(右)が存在する.



設計プロセス
1.要求仕様・制約条件の明確化

(1)現象・制約条件の物理的理解
生じる現象を数値で評価する.例えば,階段を歩く二足歩行ロボットを設計する場合,歩くとは,片足を接地した状態で,他方の足を階段に接触する前に十分な量だけ上方に上げ,同時に前方に出し,最後に下方に移動させることで接地させる,という現象のことを指す.

(2)要求仕様定量
要求仕様を定量的な設計値に落とし込む.例えば,
・抽象的な要望:電池が切れてもそのままの姿勢を保つ二足歩行ロボット
・具体的な設計値に落とし込んだ表現:歩行時に,重心からのおろした垂線と地面との交点が常に足の接地面内にある歩行姿勢をとる二足歩行ロボット


2.設計仕様の検討

(1)コンセプトの設計
ワーク,対象動作,使用範囲などから,設計対象となる機械の達成すべき目的を設定する.5W1Hに沿って項目を定めていくと,漏れ無くダブりなく設定しやすい.
注意としては,具体的な名称を使わないようにすること.例えば,ワークを「汚れた衣類」,対象範囲を「汚れを除去する」,使用範囲を「家庭」と絞り込むと,商品を「家庭用の洗濯機」と表現したくなるが,「洗濯」という言葉自体が「水で汚れを落とす」手段を含んでいるから,商品の目的を表現する言葉として不適当だ.これではコンセプト設計の段階で設計者の思考範囲を制限してしまう.もしかしたら水を使わない「洗濯機」ができるかもしれない.目的の適切な表現は「家庭用,衣類の汚れ除去装置」となる.

(2)設定すべき仕様項目の明確化・優先順位付け
この段階で設定すべきことは,ワークの条件(処理速度,位置,個数,加速度)を設定すべき個所を明確にすること,対象動作(位置,分解能,回転半径,圧力)などを設定すべき個所を明確にすること,使用範囲(ユーザ,設置場所,メンテナンス,使用環境,価格,質量,寿命)などを設定すべき個所を明確にすることである.設定すべき仕様を網羅的に出したら,最後にワークに近いところから順に優先順位をつけていく.

(3)設定仕様の数値化
仕様の各項目を表現する際は,「できるだけ軽く」ではなく,「重さ**Kg以内」など,定量的な表現を用い,必ずその設定根拠を明記すること.そうすることで,手戻りが発生した場合に,変更すべき点が明確になる


3.構想設計

(1)必要な機能の明確化
ワークに近い所から考え,必要な機能を要素分解する.構想の具体化に必要なレベルまでの要素分解でよい.例えば,歩行という機能のワークは地面と足の二つであり,1)足を地面に対して相対的に上下に動かす,2)足を他方の足に対して相対的に前後に動かす,3)(片方,あるいは両方の足が接地時に)重心を移動させる,という3つの機能に分解される


(2)構想の具体化
機械設計の場合は,周期的な運動を対象とする場合が多いので,1周期分のタイミングチャートの作成し,要素分解された機能に沿って,設計により実現すべき動作を具体化する例えば,2足歩行ロボットの場合,1)足の移動,2)重心移動,の二つに機能が分けられた.前者では,接地面と地面との絶対変位,及びロボットの基準点から見た接地面の相対変位のチャートが必要になる.後者では,重心のxy平面上の位置座標についてのチャートと,重心移動と接地時間との関係のチャートが必要になる.注意としては,タイミングチャート作成時に機構を先に考えないこと.機構から入ってしまうと,思考が制限されてしまう.


4.機構設計

タイミングチャートを実現するように,既存の機構の中から適切なものを組み合わせる.この点に関しては,論理的に思考するだけでなく,情報収集にも努めること.


5.要求仕様・設定仕様を満足するか検証

強度,固有振動数,ひずみ,重量など,要求仕様・設定仕様で設定された項目を満たすかどうか簡単に検証する


6.部品樹形図の作成

機能の要素分解を掘り下げ,具体的な部品にまで分解していく.その過程で概略図,基準面,及びその仕様(大きさや重さ,材質など)を設定していく.注意としては,ここも同様にワークに近いところから順に進めていくこと


議論の注意点

・各プロセスが完了した際には,チーム全員で情報が共有されているか確認すること
・設計時間,も制約条件であるので,時間配分,及び迷った時の意思決定方法については,事前にチーム全員でコミットメントを取っておくこと

CAD作業(今回の対象範囲外)