ムハマド・ユヌス [2008] 貧困のない世界を創る

貧困にあえぐ人々を,融資の借り手自身の力によって貧困から脱出させる「マイクロクレジット」という仕組みを構築したグラミン銀行創立者ムハマド・ユヌス氏の著書だ.読んでいて興奮した書籍は久しぶりであった.


マイクロクレジットの効果

1983年,村の銀行という名前を持つグラミン銀行が創立されてから,現在ではバングラディッシュの73,000の村において約700万人(97%は女性)への融資を行っている.返済率は99%を超えるが,その秘訣は?少額融資,?融資後のマイクロビジネスの運営支援,?女性を対象とし,融資者をグループ毎にした,の3点が挙げられる.必要にして十分な量の資金を融資し,融資後はセミナーなどを定期的に開き,返済に際して生じる問題に助言を与える.また,得た利益をより家庭のために還元する女性を対象とし,借り手をグループにすることで,返済の義務を,友人への信頼の維持という積極的な動機に置き換え,さらにグループ間で資金繰りに関する密な情報交換を可能にした.


資本主義は開発途上の構造

そのようなマイクロクレジットの仕組みを運営してきたユヌス氏は現在の資本主義はまだ半分しか完成していないという.現在の仕組みでは,富めるものがさらに富み,貧しい者はさらに貧しくなるという,二極化を止めることができない.そこで,利益を株主に還元するのではなく,得た利益を社会に還元するために自社の製品やサービスの向上に用いるという,ソーシャル・ビジネスが有効に働くのだ.まさに,ソーシャル・ビジネスは資本主義のミッシング・ピースである.


ソーシャル・ストック・マーケットの必要性

ソーシャル・ビジネスを運営するためには,初期投資が利益を上回るまでの期間をいかに乗り切るかが課題になる.ユヌス氏は,ソーシャル・ビジネスを行う企業に特化した株式市場を提案している.これは,遠い未来の話ではなく,既にソーシャル・ビジネス市場をweb上で展開するhttp://jp.techcrunch.com/archives/20090703the-inevitable-anti-us-backlash-has-started-on-kiva/のような取り組みが存在する.ソーシャル・ビジネスが資本主義の負の面を補完するのもそう遠くないのかもしれない.


ちなみに,ユヌス氏のスピーチは,以下で聞くことができる.
Creating a Poverty-Free World
Building Social Business Ventures