菅 正広 [2009] マイクロファイナンス-貧困と闘う「驚異の金融」

本書では,グラミン銀行をはじめ,世界各国のマイクロファイナンス事業を紹介し,それらの事例から日本国内の貧困を解消するために実施可能な方策を提案している.

「レモン問題」とは,財・サービスや取引の内容に関する情報が買い手によく知られていないため,不良品や欠陥商品だけが市場で取引され,結局,市場が成立しなくなる問題のことである.
「レモン問題の解き方」p.48

レモン問題は,?借り手が契約前に返済意思のないことを隠して取引を行う「逆選択」と,?契約後に借り手が返済を放棄する「モラルハザード」に分けられる.

?を防ぐためには,事前の査定,借り手との信頼関係の構築,適切な融資額の設定などが挙げられ,?を防ぐためには,借り手の事業のモニタリング・フォローアップ,5人一組のグループ・ローンによる仲間同士の圧力を利用する,などが挙げられている.

マイクロファイナンスの問題点としては,?極貧層には届かない,?返済期間の短さが事業立ち上げには適さない,?グループ・ローンは融資の機動性に欠ける,?貸付金利が高い,などが挙げられていた.これらを解決できれば,生活保護に頼らない積極的社会福祉が実現できるのではないだろうか.

“Boys, be ambitious.
be ambitious not for money
or for selfish aggrandizement,
not for that evanescent thing
which men call fame.
be ambitious for that attainment of all
that a man ought to be.”

青年よ大志を抱け
それは金銭や私欲のためにではなく
また人呼んで名声という空しいものの
ためであってもならない。
人間として当然そなえていなければならぬ
あらゆることを成しとげるために
大志を抱け。

札幌農学校・クラーク博士
Dr.Clark(William Smith Clark)

1958年から1991年にかけて実質GDPは約6倍に増加したが,国民の生活満足度はほとんど変わっていない.いまや所得が増えても幸福にならないことは自明である.幸福を実現する方法として,ソーシャル・ビジネスとその実現を支援するマイクロ・ファイナンスはその一つの答えなのかもしれない.