湯川秀樹, 梅棹忠夫 [1967] 人間にとって科学とは何か

本書は,ノーベル賞学者の湯川秀樹と,『知的生産の技術 (岩波新書)』でも有名な梅棹忠夫の対談本である.

1960年代後半の段階で,計算機による情報伝達における,情報の「意味」について考えていたり,「関係」を対象とする科学の出現を予言したり,両氏の先見性は感服である.

量子論を創りだした物理学者マックス・プランクが,繰り返し使った言葉に「人間からの離脱」というものがあります.現代の物理学は,もはや「人間から離脱」しつつある,というのです.
現代科学の性格と状況, p.5

人間にとっての科学は「価値」と切り離されていると述べる.科学を推進する原動力は,「目的」によるのではなく,ただ,世界を合理的に納得するように把握し,配列し,記述するような,生命の深いところに内在する力によるのだ.それゆえ,科学には宗教と違い物事を説明できないことが非常に多い.つまり,説明づけることが目的ではなく,説明づけられてない部分を明らかにすることが科学であるからだ.

しかし,そういった科学を探求するための研究活動がルーティン化していき,科学が大衆のものとなれば,結果として,科学は宗教化し得るのだという.これはまさに,今の地球温暖化を巡る議論にも当てはまる.温暖化対策以前にもすべきことが無数にある中で,科学教の教えに従い,盲目的に温暖化対策が最重要議題になっている.

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納得というのは一種の時間からの解放みたいなものである.一つの時点に時間を結集させ,同時にぱっと直観で理解する.
p.70

一つの事柄を3つの方向から理解できて,初めて納得したと言える,と言ったのは物理学者のファイマンだったか.本書を読んで,科学とは何なのか,そして実用を是とする工学との違いが少し納得できたようだ.