Kevin Kelly [1999] 「複雑系」を超えて

さまざまな「複雑系」(wikipedia)について、The techniumの著者で著名な研究者?であるKevin Kellyが紹介と考察を行ったのが本書だ。複雑系とは、極めて多数の要素からなり、それぞれの要素間の相互作用が存在するため、従来の還元主義的な(ものごとは部分の集合から成り立っており、系の解明にはそれを細分化していけばよいとする)アプローチでは取り扱えない系のことだ。


●自然の「複雑系」から学ぶ

「うまく働いているものを混乱させてはならない。その上に積み上げるようにせよ。」つまり、複雑なシステムを扱う際には次のようにすべきだ、という。
1.単純なことから先にせよ
2.それを完璧にできるようにせよ
3.単純な仕事の結果の上に、新しい活動の階層を付け加えよ
4.単純な事柄を変更してはならない
5.新しい階層の仕事を、単純な仕事と同じくらい完璧にできるようにせよ
6.以上を際限なく繰り返せ

これは自然の進化そのものではないか。そして、自然のシステムから学ぶことはまだたくさんある。

自然システムでは豊かな環境、厳しい環境が、多様な生物を育む。それは個々の要素が自律分散的に振る舞い、相互作用の中で、共進化(一方の進化が他方の進化を促す)が生じるためだ。そうして作り上げられたシステムは、閉じたループであると同時に、中心の無いネットワークになっている。

そうしたシステムでは、フィードバックが働いているため、ある一つの変数を操作すれば、それに引きずられる形でシステム全体が変化する。言い換えれば、一つの変数を操作するだけで、システムの挙動を手懐けることも可能なのだ。

例えば、上記特徴を備えた人工システムとして、本書ではデンマークにある「産業生態系」が紹介されていた。そこでは、石炭火力発電所の排熱を石油精製所に供給し、精油所からの排ガスは燃やされ発電に使われる。また、石油の精製過程から出てきた硫黄は、硫酸プラントに供給している。石炭の燃焼ガスの灰はセメント工場に送られる。また、発電所の排熱は、製薬会社、農場、養殖場などにも供給される。廃棄物・廃棄エネルギーが生態系のように循環するのだ。



●環境の変化と自己進化
「環境が変化すれば、それに適応する形で、システムも変わらなければならない」

例えば、デジタルマネーの普及によって、以下のような状況が生まれてくるだろう。
・流通速度の増大:資金の取引速度は光速に近づく
・支払いの即時性:支払いの間隔はリアルタイムになる
・無制限の代替可能性:全ての経済活動に課金できるようになる
・アクセス可能性の増大:全ての人が少額の金額をゼロコストで流通させることができる
・私的通貨の出現:信用に基づいた利用可能な「ポイント」が創出される

新たなプラットフォームの出現により、環境が劇的に変化し、それに適応するために、環境内部にする各システムも変化する。変化できないシステムに待っているものは、死だ。自然の進化において、死は唯一の教師であり、その進化はあらゆる学習のなかで最も愚鈍なものだ。だが、私たちは、環境に適応するために多数の死を選択する必要はない。私たちは学習することができる。学習による適応方法こそ、最適化すべきものなのだ。



●まとめ
ある状態に最適化するのではなく、変化する状態に対して、適応する「方法」を最適化する。資本主義というシステム、それを構成する数々の規制や制度、それらを人工的に進化させる「方法」こそが、今求められているのではないか。

そして、その答えは既に自然が持っているような気がする。