Paul Krugman [2000] 良い経済学 悪い経済学

本書は、元の題名”Pop Internationalism”のとおり、国際的な経済問題について、非常にわかりやすく解説をしている。あとがきの解説に「経済学を学ぶ目的は“エコノミスト”に騙されないで自分の頭で考える力をつけることである」とあるが、そのための入門書としては、この本は適しているだろう。

誤った常識として本書に挙げられていた例を2つほど紹介したい。一つは、「国と企業はまったく別もので、企業間の「競争」という概念を国家間に適用するのは間違いである」、もう一つは、「日本を含めたアジアの高度経済成長は、持続性のないものであった」というものだ。

1. 企業間の競争と国家間の競争は異なる(第4、8章)

「経済の新しいパラダイムが必要になっている。アメリカがいまでは、本当の意味でのグローバル経済になったからだ。アメリカは生活水準を守るために、厳しさを増している世界市場での競争の方法を学ばなければならない。生産性を向上させ、製品の品質を高めることが不可欠になっているのは、このためだ。高付加価値産業を主体とするものに、アメリカ経済を変えていかなければならない。将来、職を生み出すのは、高付加価値産業である。新しいグローバル経済で競争力を保つ唯一の方法は、政府と産業が新たな提携関係を結ぶことである」
p.168 第8章 大学生が貿易について学ばなければならない常識

このようなフレーズがまことしやかに流布している。しかし、貿易のGDPに対する比率は1%程度にすぎない。クルーグマンはこのような事実に基づき、第4章で、経済学のモデルを用いて、第8章では、非常に平易に説明を加えている。

国家間の「競争」によって、一部の産業は損失を被るが、労働力の流動性によって、相手国に対して「比較優位」にある産業にシフトする。国家の「競争」に勝ち負けはないのである。

結論として、第三世界新興国)の経済発展は脅威ではなく機会である。本当の脅威は、第三世界に対する第一世界の「恐れ」である、と述べている。

2. かつてのアジアの高度経済成長は持続性がないものであった(第11章)

アジアの奇跡と呼ばれる日本のやNIES諸国の高度経済成長は持続性のないものであったとクルーグマンは述べる。経済成長の源泉は二つ存在し、一つは「投入」の増加、つまり雇用の増加、労働者の教育水準の向上、物的資本のストックの増加である。もう一つは、投入一単位当たりの算出の増加である。前者が労働力供給の増加であり、後者が労働の生産性の増加に相当する。

アジア諸国の急速な成長は労働力供給の増加であり、生産性の増加の影響はわずかであったため、次第に減速していく(日本の場合はすでに減速してった)のだ。その影響をグラフで示したものをたまたまTEDで見つけることができた。

Hans Rosling: Asia's rise -- how and when

学んだことのまとめ

冒頭にも述べたことをもう一度繰り返すが、要するに「経済学を学ぶ目的は“エコノミスト”に騙されないで自分の頭で考える力をつけることである」ということなのだ。