山下和也 [2004] オートポイエーシスの世界―新しい世界の見方


オートポイエーシス (autopoiesis) は、1970年代初頭、チリの生物学者ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・バレーラにより、「生命の有機構成 (organization) とは何か」という本質的問いを見定めるものとして提唱された生命システムの本質に迫ろうとする概念である。

オートポイエーシスWikipedia


本書は哲学者によるオートポイエーシスの入門書だ。前半部では、先入観による誤解を防ぐため具体例を一切抜きにして、オートポイエーシスについて平易な言葉で説明している。後半部では、生命システム、意識システム、社会システムを例にあげ、オートポイエーシスの観点からそれぞれのシステムの「捉え方」を説明している。


オートポイエーシス・システムの基本的な性質(p.31〜)

言葉の定義

構成素:
オートポイエーシスの働き(何かを産出する閉じたプロセスの連鎖)に関与しているもの。オートポイエーシス・システムを通じて、何かを産出したりするもの、或いは産出されたものに相当する。これらはオートポイエーシス・システム自体には所属していないとしている。
構造:
産出プロセスの連鎖が閉じたとき、オートポイエーシス・システムが成立し、そのプロセス全体を「システムの構造」という。
コード:
システムの産出プロセスがどのような構成素を産出するか、というプロセスを規定するルールのこと。

オートポイエーシス・システムとは、構成素を産出するプロセスの連鎖が自己完結している(閉じている・閉域である)構造を持ち、プロセスの連鎖とともにその閉域を適宜変更していくシステムである。そのプロセスはコードによって規定されており、コードは自身の産出物・他のシステム・環境との相互作用によって変化しうる。

具体的な例を挙げると、ある草原の食物連鎖は以下のような閉じたシステムの構造をもつ。

植物が土から栄養を吸収して成長する
→草食動物が植物を食べる
→肉食動物が草食動物を食べる
→肉食動物が死んで、バクテリアが分解し、土に栄養素を付加する

そこでは、外来種の侵入によって閉域(食物連鎖に関連する生物種の範囲)が変化することもあれば、環境変化によって降雨量が変化し、「誰が誰を食べる」というコードを変更させることもある。

オートポイエーシス・システムは次の基本的な4つの性質をもつという。

(1) 個体性
システムはたとえ同種であっても、それぞれ別のものであり、独自のものである。ただし、システムに関連する構成素は固体であるとも、集合体であるともみなせる。たとえば、砂山はそれ自体を個体とみなすこともできるし、砂の一粒一粒を個体とみなすこともできる。

(2) 単位体としての境界の自己決定
オートポイエーシス・システムの産出プロセスの連鎖の各部分を切り分けて考えることはできない。

(3) 自律性
オートポイエーシスが変化は、自身の産出プロセスの結果である。つまり、環境や他のシステムなど、外部から影響を与えることができるのは産出プロセス(の一部分)に対してであり、システムの挙動を変更しようとする外部からの制御は100%の再現性をもつことはできない。

(4) 入力・出力の不在
オートポイエーシス・システムは、自己完結的であり入力と出力という区別をすることは難しい。その理由は三つあり、一つ目は、構成素はオートポイエーシス・システムに属さないという定義があるため、二つ目は、システムの外部入力とシステムの挙動の変化を一対一で対応させることができないため、三つ目は、オートポイエーシス・システムの規定する閉域が変化するため、何が外(入力と出力)で何が内(変換機構)なのかを定義できないためである。


オートポイエーシス・システムとしての社会(p.200~)

はなはだオートポイエーシス・システムの理解が不十分な中で、気づいたことを備忘録的に書き留めておきたい。

ルーマンは、社会システムの構成素を「コミュニケーション」と定義した。つまり、コミュニケーションのネットワークの連鎖そのものが社会であるというのだ。これは、O. Williamsonらの取引費用経済学などの考え方と似ているのではないか。

また、ルーマンは「コミュニケーション」を情報、伝達、理解の三つの選択の連鎖であるとした。これは情報という実体に対して、記号として表出化されたものだけが伝達され、それが解釈項に基づいて理解される、とすると、記号過程(参考:エンジニアのための記号論入門ノート)と対応づけられるのではないか。

また、オートポイエーシス・システムは基本的に制御不可能だが、内部コードが変化しないでいるうちは、そのコードを理解することで外部から意図的な撹乱を加えることで制御可能である、という性質をもつので、周縁制御ならばそのシステムをコントロールできるのではないか。例えば、「生産は管理できても、消費は管理できない」という課題は、「アニマル・スピリットに対して消費を促す」ことで解決できるのではないだろうか。

以上、全くまとまっていないが、備忘録的なので、あしからず。