「教授は研究室というオーケストラの指揮者である」

研究室における教授の役割は若いオーケストラにおけるベテラン指揮者に喩えることができる。事前の指導、一つの目標に向けた組織作りという観点から述べてみたい。


オーケストラは、公演という具体的な目標に向けて指揮者と団員が一丸となって取り組む必要がある。指揮者の役割は、舞台本番での指揮にのみ目がいきがちだが、一番重要な役割は事前の指導における曲作りだ。練習をともにすることで、楽団員全員とともに演奏曲を自分の曲に仕上げていく。そのときには、自分の色を押し付けるだけでなく、奏者の個性をうまく楽団という組織に組み込んでいくことが求められる。また演奏曲についての表面的な知識だけでなく、時代背景や作曲者の意図もくみ取る必要がある。しかし、個々の楽器を完璧に弾く必要はない。翻って、各団員は知識や経験では指揮者に劣るが、個々の楽器についてはスペシャリストである。


理想の教授と学生の関係もまたしかり。研究を推進するために、教授は、卒業論文という目標に向けて学生を指導するが、自分の教育方針を押し付けるだけでなく、学生との対話からそれぞれの個性を汲み取り、研究室という一つの組織を作り上げていく必要がある。また、教授は個々の学生のテーマについてだけでなくその分野の深い造詣を持っているが、学生は個々のテーマのスペシャリストになる必要がある。


では、具体的にオーケストラはどのような練習方法をとっているのだろうか。基本的には、個人練習、パート練習、全体練習の3つから成る。個人練習では個人の技量を高めるとともに、パートの中での自分の役割を意識して練習することが求められる。パート練習では、ハーモニーを確認、全体練習では全体のバランスを整えていく。これも研究室運営に似ている。個人で知識をインプットし、テーマの似通ったチームで知識を共有するとともに自分のテーマについて示唆を得る。そして、全体ゼミで進捗を報告し、先生方のアドバイスを得る。
教授は自分は研究室というオーケストラの指揮者だと意識することで、研究室の運営に似た要素があるオーケストラ運営から学ぶことは多いのではないだろうか。(だが,そもそもオーケストラ運営に関する知識が一般的なものではないか・・・。)