カーネギー 『人を動かす』   山口博 訳 D・カーネギー  創元社


一、 人を動かす三原則(p.60)

(1) 批判も非難もしない。苦情も言わない
誰しも他人からの賞賛を望み、非難を恐れる。非難は何も改善しない。
どんな悪人も自分が正しいと思っている。
他人を矯正するよりも、自分を直すほうが得であり、危険も少ない。
「人を裁くな―人の裁きを受けるのがいやなら」…リンカーン座右の銘
人は論理の動物ではなく、感情の動物である。偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動する。
「偉人は、小人物の扱い方によって、その偉大さを示す」…カーライル(英国の思想家)
「神様でさえ、人を裁くのには、その人の死後までお待ちになる。」…ジョンソン(英国の文学者)

(2) 率直で誠実な評価を与える
重要感をもたせる。自己の重要感=自己効力感を求めることが最も高次の欲求。
人を動かす秘訣は自ら動きたくなる気持ちにさせること。
相手の欲しているもの(=重要人物たらんとする欲求)を与えることが唯一の方法。
人の熱意を呼び起こす能力→他人の長所を伸ばすにはほめることと励ますことが何よりの方法。
けなしは向上心を阻害する。心からの賛成と惜しみない賛辞を与えること。
「お世辞は口から出るが、感嘆の言葉は心からでる真実のもの」…D・カーネギー
「この道は一度しか通らない道。だから、役に立つこと、人のためになることは今すぐやろう―先へ伸ばしたり、忘れたりしないように。この道は二度通らない道だから。」・・・格言
「どんな人間でも、何らかの点で私よりも優れている。―私の学ぶべきものを持っているという点で」…エマーソン

(3) 強い欲求を起こさせる
「人の行動は、心の中の欲求から生まれる。人を動かす最善の法はまず相手の心の中に強い欲求を起こさせることである」…オーヴァーストリート:人間の行為を支配する力
どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか=相手の立場に身をおく
常に相手の立場に身を置き、物事を見ることができる能力=win-winの関係を導く
  →自分の要求ばかりを口にしない


二、 人に好かれる六原則(p.126)

(1) 誠実な関心を寄せる
友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。
我々は、自分に関心を寄せて切れる人に関心を寄せる

(2) 笑顔で接する
幸福は外的な条件によって得られるものでなく、自分の気の持ち方一つでどうにでもなる。
→七つの習慣の前提:インサイドアウト、自己の内から外へ
笑顔には元手はいらない

(3) 名前は当人にとって、最も快い、夫も大切な響きを持つ言葉であることを忘れない。
フランクリンルーズベルトの側近ジェームズファーレーは五万人の名前を覚えていた
冷たい会社を暖かくするには人の名前を覚えること

(4) 聞き手にまわる
子どもに対して:何か話そうとするときっとお母さんは自分の仕事をやめて僕の話を聞いてくれるんだ
言いたいことを言ってすっきりすると話が進む
相槌で相手の話の内容を自分の言葉で言い換える←聞き手が話を理解していることを示すため

(5)相手の関心を見抜いて話題にする
どんな相手と話をしてもそのたびに自分自身の人生が広がる

(6)重要感を与える―誠意を込めて
他人を喜ばせ、ほめることに報酬を求める必要はない。尽くしていい気持ちにしたことが一番の報酬
人は常に自己効力感を求めている



三、 人を説得する十二原則
(p.238)

(1)議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける
  議論に負けてもその人の意見は変わらない。好意も得られない。
  「憎しみは憎しみをもってしては永久に消えない。愛をもってして始めて消える。」…ブッダ
  二人の人間がいて、いつも意見が一致するなら、そのうち一人はいなくてもいい人間だ…片片録
  →異なる意見を好意を持って受け入れる=まず相手の言葉に耳を傾け、意見の一致する点を探す
  相手の意見をよく考えてみる
  相手が反対するのは関心があるからで、大いに感謝すべきだ

(2)相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない
  教えない振りをして相手に教え、相手が知らないことは忘れているのだといってやる
  相手に非を認めさせることは難しい。自らで認めるように仕向けること。

(3)自分の誤りを直ちに快く認める
  自分に誤りがあると思えば、相手の言うことを先に自分で行ってしまうのだ。

(4)穏やかに話す
  「一ガロンの苦汁よりも一滴の蜂蜜を用いたほうが多くの蝿が取れる」…リンカーン
  人を無理に従わせようとしても、本心は変えられない。

(5)相手が即座に‘イエス’と答える問題を選ぶ
  肯定的に答える流れを作る。
  柔よく剛を制す

(6)相手にしゃべらせる
  相手のことは相手が一番よく知っている。
  人は誰でも、人より優れている場合には重要感を持ち、その逆の場合には劣等感を持つ

(7)相手に思いつかせる
  押し付けられた意見より、自ら思いついた意見のほうを大事にする。

(8)人の身になる=相手の立場に他って考える
  相手は間違っていることをしていても、間違っているとは決して思ってはいない。
  非難は誰でもできる。賢人は理解することに勤めるべき。

(9)相手の考えや希望に対して同情を持つ
  あなたがそう思うのはもっともです。もし私があなただったら、やはり、そう思うでしょう。

(10)人の美しい心情に呼びかける
  相手の信用状態が不明なときは相手を立派な紳士とみなす。
  正直で公正な人物として扱われると、なかなか不正はできない。
  批判的な眼で見ることも大事だが、表に出しすぎるのはいただけない。

(11)演出を考える
  だれしも、効果的な演出のほうを好む

(12)対抗意識を刺激する
  他人よりも優れたいという競争心を利用すべき=自己効力感を満たすように刺激する


四、 人を変える九原則(p.289)

(1)まずほめる
  まずほめると、次の厳しい言葉を受け入れてもらいやすくなる
  が、使いすぎると警戒される
  人の印象に残りやすいのは最後に行ったこと

(2)遠まわしに注意を与える
  「しかし」という言葉を聞いたとたん、今のほめ言葉が果たして本心だったかどうか疑いたくなる
  結局は批判するための前置きに過ぎなかったように思えてくる。
  「しかし」を「そして」にかえること。ほめると同時に本人が気付くようにほのめかすこと

(3)まず自分の誤りを話した後、注意を与える
  謙遜と賞賛。

(4)命令せず、意見を求める
  気持ちよく、自らがやりたい気にさせる

(5)顔を立てる(つぶさない)
  「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪に陥らせるようなことを言ったり、したりする権利は私たちにはない。
  大切なことは、相手を私がどう評価するかではなくて、相手が自分自身をどう評価するかである。
  相手の人間としての尊厳を傷つけるのは犯罪なのだ」…サンテグジュペリ

(6)わずかなことでもすべて、惜しみなく、心からほめる
  持つ可能性に比べると、現在の我々は、まだその半分の完成度にも達していない。
  人はほめられると、そうであろうとするし、そうなっていく。
  花も美しいと声をかけられて育てられると、美しい花を咲かす。

(7)期待をかける
  ピグマリオン効果(教師の期待によって学習者の成績が向上すること:教育心理学
  いい評価を与えられると、それに答えようとし、実際にそうなっていく。

(8)激励して能力に自身を持たせる
  学習はおもしろいものだと気付かせる。好きこそ物の上手なれ。

(9)喜んで協力する
  ものの断り方:公演を頼まれたとき、忙しいとかこちらの都合を言うのではなく、まず依頼されたことに対して心から感謝の意を表し、残念だがどうしても都合がつかないと告げ、その代わりに、別な講演者を推薦する。つまり、相手に失望を感じる余裕を与えず、ほかの講演者のことを考えさせる。


まとめ
  ?誠実であれ。守れない約束はするな。自分の利益は忘れ、相手の利益だけ考えよ
  ?相手に期待する協力は何か、明確に把握せよ
  ?相手の身になれ。相手の新の望みは何か?
  ?あなたに協力すれば相手にどんな利益があるか?(win-winの関係)
  ?望みどおりの利益を相手に与えよ
  ?人に物を頼む場合、その頼みが相手の利益にもなると気付くように話せ


五、 幸福な家庭をつくる七原則
(1)口やかましく言わない
(2)長所を認める
(3)あら探しをしない
(4)ほめる
  特に女性に対しては、身なり、服装、髪型など女性ががんばっているがなかなか気付かないところをほめよ。
(5)ささやかな心づくしを怠らない
  花を買ってみよう
(6)礼儀を守る
  「我々に維持の悪い毒舌を浴びせるのは、決まって家族のものだというのは、実に驚くべきことだ。」…ドロシー・スティック女史
  たとえ自分が不愉快であったとしても、それを家族に見せることで、ほかのものまで不愉快になられてはたまったものではない
(7)正しい性の知識を持つ
  結婚の失敗の四つの原因:?性生活の不調和 ?余暇利用法についての意見の不一致  ➂経済的な困難 ?心身の異常