文系のオープンソース

梅田さんの「シリコンバレーから将棋を見る」の英訳,仏訳プロジェクトがすさまじい速度で進行し,ご本人も驚かれている.『えっ、連休のあいだに英訳ができちゃったの?!』Google DocsやPBwikiなどのプラットフォームの力を最大限に利用された結果だろう.「すごい」ということは,すでに言い尽くされているので,今日はid:shotayakushijiが言った

WE WANT TO BRIGHTEN THE NOW GLOOMY JAPANESE WEB
『限界とそして希望』日本にもシリコンバレー

をいかに実現するかについて考えてみたい.

オープンソースのプロジェクトが成功する要素は以下のようなものがあげられる.
・情熱をもったコアメンバーがいる
wisdom of crowds がある
・成果物に明確な評価基準が存在し,既得権益と競合しない

今回の英訳プロジェクトの例で言うと,15人の情熱をもったコアメンバーがおり,その周りに梅田さんや翻訳プロジェクトに関心を持つ十分な量のwisdom of crowdsが存在し,英訳された文章という明確な成果物と,将棋という特殊性からの訳本の既得権益が存在しないことだ.

では,日本のwebに希望をもたらすために,このようなプロジェクトを至る所で発生させていくためにはどの分野が有望で,どのような仕組みが必要なのだろうか.それを考えるために,すでに存在するオープンプラットフォームを挙げてみる.

人力検索はてななどの質問サイト
はてな教えてgooOKwaveなど複数のサイトが存在する.これらは,一つの目標に向かって情熱をもったコアメンバーwisdom of crowdsを活用するのではない.しかし,問題を解決するという成果物に明確な評価基準が存在する,一つの叡智の活用形体だ.

Wikipedia
これは,上記人力検索に,
パブリックドメイン、もしくは自由なコンテンツのライセンスの下で、教育のためのコンテンツを蒐集・発展させる活動の促進、また生み出されたコンテンツを効果的かつ全世界に広めること
『ウィキメディア財団について』
という使命を持ったコアメンバーが集まったものと考えてよいだろう.コアメンバーが集まると,群衆の叡智は体系づけられ,利用しやすいものへと変わる.


クラウドソーシング
自分はInnoCentiveしか知らなかったのだが,
『いくつご存知ですか?海外のクラウドソーシング事例をまとめてみました』
に詳しい.


SARSウイルスの発見

SARSウイルスの発見は、WHOの主導でフランス、ドイツ、オランダ、日本、アメリカ、香港、シンガポール、カナダ、イギリス、中国の各国にある研究所に、ウイルスの発見、分析に協力するよう求めたことがきっかけとなり、国際プロジェクトが発足。 文字通りround the clock(24時間体制で)で研究した結果(1日が終わると研究者はその日の結果をシェアし、起きているタイムゾーンにいる研究者がその結果を利用しながら続ける)、その1ヵ月後には、コロナウイルスSARSの原因であることが解明されたそう。
『豚インフルと集団の叡智』世界級ライフスタイルのつくり方
論文という結果ではなくて,活動単位で情報共有することが,研究開発をすさまじい速さで加速させる.

ビル&メリンダ・ゲイツ財団
『ゲイツ財団の「枠を外れた」Grand Challenges』黒川清のブログ
今まで,特許による収益を確保するために「競争」していたエイズ特効薬開発を,財団がお金を支出することで,「協調」に変化させ加速させようとしている.例えば,iPS細胞による再生医療には健康保険の仕組みでは対応できず,収益を確保することが難しいといった分野では,この財団の援助が今後このような協調がより加速されていくのではないか.


これらは一つ目に挙げた人力検索を除いて,先に挙げた3つの条件を満たしている.特許使用料や原稿料など,お金以外のインセンティブによって成果が貢献者に還元される仕組みはすでに整備されつつある.

本題に戻ると,今回の英訳プロジェクトをWE WANT TO BRIGHTEN THE NOW GLOOMY JAPANESE WEBにつなげるためには,どうしたらよいのか.今の自分にわかる答えは一つだけ,これに刺激を受けた各人が具体的行動を起こしていくことだ.行動を起こす前にはそのアイデア共有が必要だ.


そこで,現在私が持っている具体的アイデアとして以下に4つを簡単にあげておきたい.,私が既に思いついていることだからすでに世の中に存在しているだろうが.

学術書の翻訳プラットフォーム
学術書の翻訳をオープン化することでスピードを上げる
・国内市場では需要が少なく,元が取れないことが多いため,既得権益と競合しない
・懸念は,すでに英語が標準言語となっているので翻訳に意味を見いだせる専門家(コアメンバー)がいるかどうか

知識習得経路の共有プラットフォーム
・ある人の知識インプットソースを時系列で体系化
・多くの人の知識インプットソースが可視化,体系化されれば,自分が新しい分野を学びたくなったときに,どのように学んだらいいのかを提案してくれる

オープンなブレインストーミングのプラットフォーム
・アイデアベースのブレインストーミングに誰でも参加できるプラットフォームを作る
・アイデアを欲している場をユーザーに提案する
・イメージはtwitterをアイデア毎に分類したプラットフォーム

記事の投稿プラットフォーム
・何か事件が起こったときに,現場に一番近い人がその情報を発信する
・情報発信のプラットフォームであるニュースサイトがその記事をオークション形式で落札し発信する
・既に,Twitterがこれにあたるのかもしれない.


最後に,「言うは易し,行うは難し」である.今回の英訳プロジェクトをすさまじい速度で進めているコアメンバーに敬意を表するとともに,刺激を受け,自分も何か行動を起こさないと.