原 研哉 [2003] デザインのデザイン

[概要]
「デザイン」とは一体何なのか.本書では,豊富な写真と例により多くのデザインが紹介されている.しかし,前書きで筆者が

本書を読んでデザインというものが少しわからなくなったとしても,それは以前よりもデザインに対する認識が後退したわけではない.それはデザインの世界の奥行きに一歩深く入り込んだ証拠なのである.

と述べているように,本書をよめばデザインとは何か,あるいはいかにデザインするかが分かるわけではない.

ただ,無謀を承知でデザインのデザインとは何かを一言で表現すると,「デザインとはモノやシステムを創造することで,何かの情動や行為を促すこと」ではないだろうか.

デザインというものを元々何であるかがわからない弱輩者が,読んだ後にさらにデザインについて知りたいと思わせる本だった.


[引用]
p.34建築家の坂茂(ばん しげる)によるトイレットペーパー

真ん中の芯を四角形にするというだけで,?使用時にカタカタとなることで出し過ぎを防ぎ,さらにその音が省資源を促す ?運搬やストック時に省スペースになる.ただ芯の形を変えるという一つの作業だけで,ここまで効果が生まれるものかと,目から鱗だった.デザインとは何もたいそれたものではないのだ.


p.52プロダクトデザイナー深澤直人の傘立て

傘立ては,何も円筒形である必要はなく,玄関先の壁面から15センチくらい離れた床面に幅8ミリ,深さ5ミリくらいの溝を掘ればよい.傘を置きたい人は,傘の先端を固定できる引っかかりを探す.その行為に先回りして掘られた溝は間違いなくそれを探す傘の先によって発見され,結果として玄関先に傘は整然と並ぶことになる.
人間の行動の無意識の部分を綿密に探りながら,そこに寄り添うようにデザインをする.「アフォーダンス」という概念を用いたデザインだ.
53ページに掲載されていたCDプレーヤーのデザインも秀逸だったので,ぜひ写真を見てほしい.


p. 77汚れやすいところに敢えて白色を用いる

一流のレストランが白いテーブルクロスを用いるのと同様に,山口県光市になる梅田病院(産婦人科)では,白い布製のカバーを案内板に用いている.子供たちが触ることで汚れやすい部分に敢えて汚れが目立つ白色を用いることで,最高の清潔さが無意識のうちに脳裏に刻印されるのである.


p.108 「が」ではなく「で」

これ「が」いい,では時として執着やエゴイズムを生みかねない.これ「で」いいというレベルの中でも最高の商品を提供するのが無印良品だ.世界合理価値とでもいうもので,資源の活かし方やモノの使い方に対する哲学を,あえて最上級のものではなく,これ「で」いいといわれるようなものを提供することで実践する.例えば,ある社会における大量の消費を支えるために,熱帯雨林が大量に伐採される.局所的な最適解は全世界における最適解とは限らないということを理解し,それを変えるために実践を行っている例だ.


p.155ジャーナリスト高野孟『世界地図の読み方』での日本の見方

世界地図を日本が一番下に来るように90度傾けると,それはまるでパチンコ台のようである.パチンコ玉に相当する文化の通り道は無数にあるが,その一番下の終着点は日本だけだ.ユニークな知性的な視点に,私も著者同様に目から鱗が落ちた.


p.197論議の及ばないルールを出し,安易な正義感に訴えるマスコミ

著者は愛知万博のプロジェクトにかかわっていた.「オオタカ」の営巣を理由に会場としての利用をやめさせようとするマスコミ,論議の及ばないルールを持ち出し,お決まりの結論へ導こうとする安易な正義感.他の高速道路の計画などを比較に出しもせず,自分の行為がどれだけの機会損失を及ぼし得るかを考えもせずに,直情的に動くマスコミの一面.根本的な問題とその解決策を考えることの重要性はどの分野,どの時代でも変わらない.