杉万俊夫(編著)[2006] コミュニティのグループ・ダイナミックス

[概要]
グループ・ダイナミックスはグループの現象を説明する上で,「全ての行為とその対象は,何らかの集合流に内在して初めて存立し,それらは集合流の一コマに他ならない」という前提に立ち,個々人の心に還元して説明することはしない,つまり心理主義の立場はとらない.例えば,現在の心理学の潮流は,ミクロ社会学(大小さまざまな集合体を研究する)とマクロ生理学(心理実験の結果を身体(特に脳)の生理学的な働きと関連させ研究する)の二つに分かれるが,グループダイナミクスは,前者のミクロ社会学が,グループ・ダイナミックスが対象とする領域である.それゆえ,普遍的な事実の発見を目的とし,発見した事実は論理的な言語に写し取ることができ,その正確さを高めていく,という論理実証主義はとらない.

集合流には二つの側面がある.見えない側面と見える側面だ.見えない側面における,集合流の原動力は,センス・メーキングと呼ばれ,過去の事象に対する共通理解を醸成し,個々人の行動規範を形成することである.見える側面の原動力は,意思決定(decision making)であり,将来とり得る行動のあいまい性(多義性)を排除し,行動へのコミットメントを形成することである.

また,本書では,見えない側面を説明する理論として大澤真幸の規範理論,見える側面を説明する理論として,ユーリア・エンゲストロームの活動理論が紹介されていた.