猪木武徳 [2009] 戦後世界経済史

本書で著者は,戦後経済を読み解く視点として下記の5つを挙げ,ともすると発散しがちな戦後の世界経済史を350ページ強にまとめている.

・市場の浸透と公共部門の拡大
・グローバリゼーションと米国の時代
・所得分配の不平等
・グローバル・ガヴァナンス
・市場の「設計」と信頼


特に本書を読んでいて痛感したのが,経済と政治は密接に結びついているということだ.


第三世界の貧困と悲惨の原因は基本的に「経済の政治家」,そして「悪しき政治」にある.強すぎる国家,単一政党,軍隊,国営企業があらゆる経済的進歩を阻んでいるからである.

第四章第4節 脱植民地化(decolonization)とアフリカの離陸 p.216


要素間に多数の相互作用が存在する予測不可能な系を複雑系とするならば,人の社会とその歴史はまさに複雑系である.そのような社会では要素間の関係性・相互作用を解明することが重要になる.

経済学とはそうした複雑系において,「行き過ぎ」を食い止めるシステムをいかにデザインするか,ということを目的とした学問であろう.国家が複雑に結びついた戦後の世界経済史を俯瞰した本書はそうしたシステムを設計するためのヒントを与えてくれるかもしれない.