西水 美恵子 [2003] 貧困に立ち向かう仕事

プリンストン大学の経済学部の助教授から、世界銀行へ、というキャリアを進んだ西水さんの著書。「現場を体感する」ということの大切さを再認識させられた。他にもこの本の大きな収穫は以下の二つだった。


Educate a boy, you educate a human being. Educate a girl, you educate generations.

◎女子を一人教育すると、何世代にもつながる p.36


相手が何を言いたいと思っているのかということを、なるべく気持を落ち着けて聞くようにしています。[…]いいたいことは何か、ということと同時に、「いっていないことは何か」ということにも気をつけています。

◎「サイレンス」を聞きなさい p.49

学習パターン

『Learning Patterns』(PDF版)のダウンロード

2009年4月、慶應義塾大学総合政策学部環境情報学部では、全学生を対象に、冊子『Learning Patterns: A Pattern Language for Active Learners at SFC 2009』が配布されました。ここでは、その冊子のPDF版をダウンロードできます。

新入生に対する「学びの教科書」だ。
今度高校生に講演するときに使えるかも。

Kevin Kelly [1999] 「複雑系」を超えて

さまざまな「複雑系」(wikipedia)について、The techniumの著者で著名な研究者?であるKevin Kellyが紹介と考察を行ったのが本書だ。複雑系とは、極めて多数の要素からなり、それぞれの要素間の相互作用が存在するため、従来の還元主義的な(ものごとは部分の集合から成り立っており、系の解明にはそれを細分化していけばよいとする)アプローチでは取り扱えない系のことだ。


●自然の「複雑系」から学ぶ

「うまく働いているものを混乱させてはならない。その上に積み上げるようにせよ。」つまり、複雑なシステムを扱う際には次のようにすべきだ、という。
1.単純なことから先にせよ
2.それを完璧にできるようにせよ
3.単純な仕事の結果の上に、新しい活動の階層を付け加えよ
4.単純な事柄を変更してはならない
5.新しい階層の仕事を、単純な仕事と同じくらい完璧にできるようにせよ
6.以上を際限なく繰り返せ

これは自然の進化そのものではないか。そして、自然のシステムから学ぶことはまだたくさんある。

自然システムでは豊かな環境、厳しい環境が、多様な生物を育む。それは個々の要素が自律分散的に振る舞い、相互作用の中で、共進化(一方の進化が他方の進化を促す)が生じるためだ。そうして作り上げられたシステムは、閉じたループであると同時に、中心の無いネットワークになっている。

そうしたシステムでは、フィードバックが働いているため、ある一つの変数を操作すれば、それに引きずられる形でシステム全体が変化する。言い換えれば、一つの変数を操作するだけで、システムの挙動を手懐けることも可能なのだ。

例えば、上記特徴を備えた人工システムとして、本書ではデンマークにある「産業生態系」が紹介されていた。そこでは、石炭火力発電所の排熱を石油精製所に供給し、精油所からの排ガスは燃やされ発電に使われる。また、石油の精製過程から出てきた硫黄は、硫酸プラントに供給している。石炭の燃焼ガスの灰はセメント工場に送られる。また、発電所の排熱は、製薬会社、農場、養殖場などにも供給される。廃棄物・廃棄エネルギーが生態系のように循環するのだ。



●環境の変化と自己進化
「環境が変化すれば、それに適応する形で、システムも変わらなければならない」

例えば、デジタルマネーの普及によって、以下のような状況が生まれてくるだろう。
・流通速度の増大:資金の取引速度は光速に近づく
・支払いの即時性:支払いの間隔はリアルタイムになる
・無制限の代替可能性:全ての経済活動に課金できるようになる
・アクセス可能性の増大:全ての人が少額の金額をゼロコストで流通させることができる
・私的通貨の出現:信用に基づいた利用可能な「ポイント」が創出される

新たなプラットフォームの出現により、環境が劇的に変化し、それに適応するために、環境内部にする各システムも変化する。変化できないシステムに待っているものは、死だ。自然の進化において、死は唯一の教師であり、その進化はあらゆる学習のなかで最も愚鈍なものだ。だが、私たちは、環境に適応するために多数の死を選択する必要はない。私たちは学習することができる。学習による適応方法こそ、最適化すべきものなのだ。



●まとめ
ある状態に最適化するのではなく、変化する状態に対して、適応する「方法」を最適化する。資本主義というシステム、それを構成する数々の規制や制度、それらを人工的に進化させる「方法」こそが、今求められているのではないか。

そして、その答えは既に自然が持っているような気がする。


ジャック・アタリ [2008] 21世紀の歴史

いかなる時代であろうとも、人類は他のすべての価値観を差し置いて、個人の自由に最大限の価値を見出してきた

p.19序文-21世紀の歴史を概観する

前半部では、まず過去の歴史を振り返る。1200年代のベルギーの中心都市、ブルージュから始まり現在のロサンジェルスに至るまで、世界の歴史で中心的な役割を担ってきた都市の系譜を読み解く。中心都市化が生じる初期には、ネットワーク外部性がはたらき、発展が発展を呼ぶという好循環を生み出す一方で。成熟期には、収穫逓減の法則が働き、発展の速度は収束する。そうした発展と衰退のダイナミクスから著者は次のような普遍的な原理原則を導き出す。例えば、「外国人エリートの受入れは成功の条件である。」「新たなコミュニケーション手段の確立は、[中略]時の権力者には、情け容赦のない障害をもたらす。」「戦争の勝利者となる国とは、常に参戦しなかった国、またはいずれにしても自国領土で戦わなかった国である。」といったようなものである。そのような普遍的な原理・原則から、後半部では、未来の行方を予想する


後半部で著者が予想した21世紀の歴史の詳述は避けるが、新たな歴史の担い手をトランスヒューマンというカテゴリの人々としている。彼らは、愛他主義者で、人道支援や他者に対する理解に熱心であり、自分たちの活動のために必要な手段を自ら開発する。個々のメンバーの知識や行動力を足し合わせたものよりも大きな、集団の智恵、あるいは集団の叡智という無尽蔵な資源の分配を通じて、市場では解決のつかない問題を扱い、世界の行方を修正していく。そこでは、マイクロファイナンスなど、人々をエンパワーする仕組みの存在感が急速に増していくという。


ジャック・アタリの想像した21世紀の世界で活躍するためには、
・自身が主体的に知識や経験を提供し、集団の叡智の一部となることで、世界に貢献すること
・自身の関与はあくまで間接的で、集団の叡智の創出を促し、世界に存在するニーズと結び付ける仕組みを作ること
の二つが考えられる。

自分の思考はどちらかというと後者なのかなとも思う。仕組みづくりという視点から、どのような貢献の仕方があるのか、具体的に探っていきたい。

猪木武徳 [2009] 戦後世界経済史

本書で著者は,戦後経済を読み解く視点として下記の5つを挙げ,ともすると発散しがちな戦後の世界経済史を350ページ強にまとめている.

・市場の浸透と公共部門の拡大
・グローバリゼーションと米国の時代
・所得分配の不平等
・グローバル・ガヴァナンス
・市場の「設計」と信頼


特に本書を読んでいて痛感したのが,経済と政治は密接に結びついているということだ.


第三世界の貧困と悲惨の原因は基本的に「経済の政治家」,そして「悪しき政治」にある.強すぎる国家,単一政党,軍隊,国営企業があらゆる経済的進歩を阻んでいるからである.

第四章第4節 脱植民地化(decolonization)とアフリカの離陸 p.216


要素間に多数の相互作用が存在する予測不可能な系を複雑系とするならば,人の社会とその歴史はまさに複雑系である.そのような社会では要素間の関係性・相互作用を解明することが重要になる.

経済学とはそうした複雑系において,「行き過ぎ」を食い止めるシステムをいかにデザインするか,ということを目的とした学問であろう.国家が複雑に結びついた戦後の世界経済史を俯瞰した本書はそうしたシステムを設計するためのヒントを与えてくれるかもしれない.

NPOの発展モデル


10月26日,第3回 共生・地域文化大賞というNPOコンテストを観覧してきた.そこで,9つのNPO法人を一覧し比較することで,NPOの発展の段階が4つに分類できるのではないかとの示唆を得た.その詳細を以下で述べたい.

NPOにはStakeholderとして、リソースの保持者とニーズの保持者、およびNPOの3者が存在する。
●資源の保持者:物品・資金の提供を行う者や,労働を提供できる者等である.
●ニーズの保持者:それらのリソースを必要とするが,財政的・能力的・時間的にそれらのリソースにアクセスすることが困難な者である.
NPO:行政の施策が不十分なニッチな市場に着目し,上記のギャップを埋める役割を果たす.

そうしたNPOの発展の段階は以下の図に示すように,4つの"S"に分けられる.

段階1:Separated
資源とニーズが分け隔てられており、NPOによる継続的仕組みの構築が求められている段階である。規模の経済に寄りビジネスを行っているところでは,必ずサプライ・チェーンの無駄が生じる.その無駄の削減というニッチな市場に対して,NPOの活躍が望まれている.

例:例えば,食品の加工メーカでは作りすぎたお菓子があまっているが,一方でおなかをすかした生活弱者が存在するといった場合である.


段階2:Shared
資源とニーズの間の架け橋として、NPOが継続的仕組みを構築した段階である。

例:フローレンス(http://www.florence.or.jp/)は保育所では預かってもらえない病児保育というサービスを,主婦層の労働力を駆使し,首都圏で展開している.


段階3:Synergy
資源を保持する者とニーズを持っている者の2者間で、互いに相互作用を及ぼし、相乗効果を生み出している段階である.

例:このゆびとーまれ(http://www.geocities.jp/kono_yubi/)は赤ちゃんからお年寄りまで、障害があってもなくても一緒にケアする活動方式を採用し,本来であれば世話をされる側であるお年寄りが子供の相手をして面倒を見るという,相乗効果を生み出している.


段階4:Synchronized
資源を保持する者とニーズを持つ者の区別があいまいになり,3者以上の間で付加価値プロセスのサイクルが回っている段階である.

例:グラミン・ダノン(紹介記事:http://bopstrategy.blogspot.com/2009/07/blog-post_09.html)は,グラミンバンクを利用した農民が乳牛を飼い,その乳をグラミン・ダノンの工場に持ち込み,ヨーグルトにする,そしてそのヨーグルトをヨーグルト・レディーたちが売る,という好循環を発生させている.



段階1から2の間の壁:Sustainability
NPOが提供する仕組みの持続可能性(維持費に見合うだけの利益)が求められる.つまり初期投資の削減が必要となる.

段階2から3の間の壁:Scalability
NPOが提供する仕組みの,スケーラビリティ,つまり拡大した際に必要となる変動費を低く抑える仕組みが求められる.

段階3から4の間の壁:Sympathy
この段階は,よくわからないが,共感を呼びこむような社会的インパクトが必要なのではないかだろうか.


参考:
BOP (Bottom of Pyramid)を対象とした事業を5つに分類していた。『営利と社会性をめぐる企業観』BOP戦略研究フォーラム

Google ReaderのNote in Readerがあればはてブはいらない

Google Readerで毎朝RSSでニュースやブログを回覧しているため,情報をなんとかしてそこに一元化したかった.

いままでは,
RSS以外の情報で,短いものはEvernote,ページ全体は,はてブ
RSSの情報はGoogle Reader
を利用していた.

しかし,
Google Shared Itemを活用して更なる理想環境を作る
Share 可能な Notes がつけられるようになった Google Reader
で紹介されている方法を使えば,Google Readerのみで一元化できてしまう.全文検索もなんのそのだ.さすが,google,また一つ知的生産性を向上させるツールを提供してくれた.